長栄山本行寺(福井県越前市武生柳町)参拝記【参拝記その13】〜「岩題目」と「題目岩」
このエントリーには、「岩題目」と「題目岩」という副題がついています。福井県にある、よく似た名前の日像上人のふたつの聖遺物について紹介します。
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/
妙智寺と隣接して、長栄山本行寺があります。
このお寺は、永仁2年(1294年)日像上人の開基。
もとは真言宗寺院で、時の住持は上洛途上の日像上人に法論を挑み、論破されて日像上人に帰依、名を「府南坊日了律師」とあらため、お寺も改宗・改名して「長栄山本行寺」となったとのこと。
本行寺 全景
本行寺 本堂
山門をくぐると、本堂の前には、題目塔の上部のような石柱を、文字の刻まれた岩にセメントで固定した岩塊があります。
日像上人の聖遺物のひとつ。解説はのちほど!
庫裏で訪いを入れるると、幸いにもお上人はご在席でした。
こちらのお寺では、お盆の法要は翌11日ということで、本堂は、参拝者のための椅子や、お供えものなどの入った段ボール箱があちこちに積み重ねられ、大変な混雑です。息子さんとともに翌日の準備をなさっておられたのを中断し、お参りの希望をこころよく受け入れてくださったのでした。
こちらのお寺でも、本堂内部の、ご本尊をお祀りする中央祭壇の左右に三十番神や鬼子母神と十羅刹女などの神様たちをお祭りする祭壇がもうけられていました(武生市内の日蓮宗のお寺では、「法華経擁護の諸天善神」をお祀りするのに、本堂の内部に祭壇を設けるのが標準なのでしょうか。まだ三ヶ寺しか拝見していないのに結論を出すのは早計かもしれませんが、本堂とはべつのお堂を設ける京都・滋賀のお寺とは対照的であるように思いました)。
お経の奉読を終えると、お上人は、このお寺の沿革についてお話しくださいました。
・武生では町が全焼する火難が何度かあり、このお寺も山門をのぞく伽藍を焼失、古記録を失ってしまったこと。
・山門は、独特の「薬医門」という様式の貴重なものであること。山門の屋根瓦が赤いのは、火事で変色したのではなく、独特の釉薬によるもの(木材の部分に、火事の痕跡がのこっています)。
本行寺 山門
本行寺 山門由緒書
・本堂前の岩塊は、日像上人が岩肌に書いたお題目を刻んだ「岩題目」。かつて、武生の西南の山中にある小野町にあったもので、吉野瀬川ダムの建設により水没するため、岩肌より削り出し、本堂前に安置しなおしたものとのこと。
岩題目の右手前にある「日像聖人染筆岩題目」碑には、「この岩題目は、旧武生市小野山中の山肌に刻書されていたものを、小野町ダム水没化に伴い、当地に移転建立するものなり」と、記載されています。
小野町の日蓮宗の信者が本行寺の檀家さんであったというご縁で、こちらにお迎えすることになりました。文字がきざまれた部分を、碑面を破損することなく削り出すという大掛かりでたいへんに難しい作業であったが、お国の費用でやってもらえたそうです。
この題目岩がもともとあった場所にいくための道は、工事のためすでに通行通不能となっており、跡地そのものも、いずれ水没してしまうとのことでした。
こちらのお寺に訪いをいれたとき、日像上人が開かれたり、改宗させたお寺をお参りしていることをお伝えしましたが、「そういうことなら、まずお参りすべき「四箇聖跡」というお寺がありますよ」と、以下のお寺を紹介していただきました。
日像上人四箇聖跡(しかせいせき)
光明山妙勧寺 (1293年,越前) 越前市武生今宿町。
大谷山妙泰寺 (1294年,越前) 南条郡南条町西大道。
最初具足山妙顕寺 (1294 年,越前) 敦賀市元町。
後瀬山妙興寺 (1294 年,若狭) 小浜市鹿島。
ぼちぼちと、お参りしていこうと思います。
お上人よりいただいた御首題(御朱印)
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/
さて、福井県内には「日像上人によって岩肌にきざまれた題目」という聖遺物がもう一箇所あるのです。
このブログの「日像上人の霊蹟・由緒の地」に「▪文殊山題目岩」としてリストアップしている霊跡がそれです。
『福井県史』「通史編2 中世」や、「上文殊の伝説」などによれば、日像上人が越前を南下する途上、当時の街道がとおっていた文殊山の麓において、岩に題目を刻み、のち「題目岩」とよばれて崇敬の対象となっている、という記述があります。
文殊山は、福井市と鯖江市の境界にあり、全行程 分ほどのハイキングコースになっています。文殊山の麓には、この題目岩を護持するため、大正寺代に妙真尼という方が建立した岩題目山妙真寺というお寺もあります。
じつは、本行寺のお上人から「岩題目」のお話をうかがっているとき、この「題目岩」と混同しながら聞いておりました。
こちらの題目岩も、いつかお参りしたい霊跡です。